英国キュー王立植物園収蔵画のボタニカルアート展を見に、牧野植物園に行った日は、台風の影響なのか午後からは日差しも強くなく、心地よい風が吹き抜けていました。回廊を歩いていると、風に吹かれて木々の枝葉が擦れ合う音が、何とも心地よく五感の感覚が研ぎ澄まされてゆきました。まるで木々が話をしているかの様でもあり、また、風が木々という楽器と共演しているかのようでもありました。木々の根元にはシダ植物が伸び、通り雨が土の匂いを沸き立たせ、命の循環を感じさせてくれました。朽ちた木々の枝葉は土の中の微生物によって分解され、ふかふかの土に還り再び新しい命へと廻ります。
セレンディピティなのでしょうか、その日の夜、カナダのコロンビア大学の生態学者スザンヌ・シマードさんの「森で交わされる木々の会話」に触れることができ、共振共鳴。人間も森も地球も全ては生命体。
私のいのちのは、私という一人のいのちだと長らく思っていました。
身体の事を知るようになって、私の身体は色々ないのちの複合体だということが分かってきました。
私たちの体は、37兆個の細胞の集まり。
最初は1個の受精卵だった細胞が分裂し、どんどん増えてゆきます。1個、1個の細胞には意志があり、神経細胞になったり、肺の細胞になったり、皮膚の細胞になったりと様々な個性を発揮してゆきます。
自然界には、単細胞の生き物(細菌、アメーバー等)がいますが、生命の進化の過程で、この単細胞のいのちの集合体が私たち多細胞生物となったのです。
つまり私たちの身体は37兆個のいのちの塊なんです。凄いですよね。
更に凄いのは、ばい菌のいのちとも合体していることなんです。
「ばい菌』というとなんだか悪いイメージですが、実は私たちの身体は、ばい菌だらけなのです。皮膚の表面、鼻の孔、耳の穴、のど、胃、腸と、あらゆるところにびっしりとばい菌が棲みついているのです。
「汚ーい。除菌しなくちゃ」なんて思わないでくださいね。
このばい菌は常在菌といって、私たちの身体から栄養をもらう代わりに、きちんとお仕事もしてくれているのです。
外からくる悪い菌のバリヤーになったり、私たちの身体では作ることはできないけれど、身体に必要でとても大切な物質を分泌してくれるのです。(例えば、腸内細菌が作る生理活性物質、ビタミン、ミネラル、ホルモン)
抗菌薬、抗生物質,保存料等の化学物質が、常在菌のバランスを崩し、様々な病気を引き起こす原因となっていることが、最近の研究で明らかになっています。
スザンヌ・シマードさんの「森で交わされる木々の会話」のお話は、私たちの身体の中で起きている事と非常によく似ています。
スザンヌ・シマードさんの「森で交わされる木々の会話」の一部を簡単に要約します。
森の木々は地上部では1本、1本独立して生えていますが、土の中でお互い根でコンタクトしていることを放射性炭素を用いた実験でカバノキとモミノキとスギノキで確かめたのです。
植物は空気中のCO2を光合成によって糖に変え、でんぷんとして根に蓄えエネルギー源とします。
この時に光を遮った木は、光合成ができず、葉からCO2を取り入れないので炭素不足となります。その時カバノキとモミノキは、不足している相手に地下で分けるというコミュニケーションをしているのです。
そのコミュニケーションをつなぐ導線がキノコの菌根なのです。キノコの菌根菌は木の根に寄生して栄養をもらい、その代わりに木が必要な、ミネラル、ホルモン、生理活性物質を作り木にあげています。いわゆる共存共生です。またこの菌根は木と木の根のあいだに縦横無尽に伸びて、炭素が欲しいとか、虫にやられてしんどいとかという木と木の会話を伝えるインターネットケーブルような役割と、またその要求に答えて木々の間での必要な物質を運ぶ役割もしているのです。
まるで私たちの身体の腸内細菌と神経系・ホルモン系と同じなんです。
私たちの腸には1000種の腸内細菌(500か~1000兆個)が住み着いて腸内フローラを形成しています。腸の粘膜の上を、まるでお花畑のようにびっしりとカバーしています。私たちが食べた食べ物を少しもらって、栄養にする代わりに、下の図のように、私たちが必要な神経伝達物質、ホルモン、生理活性物質、ビタミン、ミネラルを作ってくれるのです。脳の三大神経伝達物質といわれるセロトニンは、腸内細菌によって、その前駆物質が作られ脳に運ばれセロトニンとなります。
セロトニンは心のバランスを保ち、精神を安定させる作用があります。セロトニンが不足すると、質の良い睡眠がとれなくなったり、感情のコントロールができなくなったり、感情が湧かなくなったり等の症状があらわれます。腸内細菌は、私たちが生きてゆくために大切なパートナーなのです。
木一本、一本は地上部では、ひとつの独立したいのちですが、地下では繋がり、森林という一つのいのちとなり、またそのいのちの営みの中に様々な動植物が絡み合い森という生命体を作っています。
私たちの身体もまた、37兆個の細胞の集まりに1000兆個のばい菌のいのちの集合体からできています。
自然界の生き物は小さな個という命がそれぞれの役割を全うしつつ、大きないのちになるのだと改めて感じました。
この地球は1個の単細胞の生き物から出発し、今、多種多様のいのちが輝いて、見えないところで繋がって地球という生命体を創っているのですね。
地球から見れば、人間はばい菌ほどの小さな生き物。地球にとって善玉菌でありたいものです。
腸内フローラとお花畑似ていますね。きっと腸内フローラの命名はここが由来なんですね。
腸内フローラを一番美しく咲かせるには、どんなものよりバイオリンクがピカイチ。
そして、和食、日本の発酵食品。特定の乳酸菌ヨーグルト等は、あえて摂らなくて良いです。
来月、それについて詳しく書きます。「いつまでも元気溌剌、若く、美しく」